臨床歯周病学会投稿論文4

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臨床歯周病学会投稿論文4

2023年12月26日

咬合性外傷を伴う広汎型中等度慢性歯周炎に対して

歯周組織再生療法とインプラント治療を用いた一症例

       

Regenerative periodontal therapy and implant treatment for generalized mild chronic periodontitis

 with occlusal trauma  A  case  report

川里 邦夫

KAWASATO  Kunio

キーワード:咬合性外傷, 重度慢性歯周炎, 歯周組織再生療法, インプラント

 

諸言

歯周炎患者において咬合性外傷は歯根破折や歯槽骨の吸収を招き, 重度慢性歯周炎に移行する可能性がある. 歯周病を悪化させないためには, プラークコントロール, 歯周基本治療が最も重要であるが, それに加えて咬合のコントロールならびに清掃性の高い, 歯周組織の確立も重要と考える.

今回, 歯周基本治療で細菌性炎症因子を除去するとともに, 咬合調整や側方運動時の臼歯離開を図り咬合性外傷に対応した. その後, 臼歯部の骨縁下欠損にエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)と自家骨・骨移植材を用いて歯周組織再生療法を行い,  欠損部にはインプラント治療を施し, 良好な結果が得られた症例を報告する.

 

症例の概要

患者:56歳, 女性

初診:2008年 11月

主訴:上顎右側中切歯の動揺

全身的既往歴:特記事項なし, 非喫煙者.

歯科的既往歴:上顎右側中切歯は20歳の時に打撲し抜髄・補綴治療を受けた. 今まで修復治療は行ってきたが, 歯周病の治療は受けたことがない. ここ十数年未治療であった.

口腔内所見:口腔衛生状態は不良. すべての歯に, 歯肉の発赤・腫脹が認められた. 7 6 ,  7 6 ,  6 7,  には6mm以上のポケットが認められ, 7 6  6 7にⅠ度の, 1 にⅡ度の動揺があった. 4mm以上のポケットは45.3%, Bop(+)は44.0%, PCRは100%であった. また,  6  近心にⅠ度の根分岐部病変を認めた. 上下顎臼歯部に修復物があるが, 辺縁は不適合で2次カリエスが認められた. 上顎には口蓋隆起, 下顎にも下顎隆起が見られ, すべての歯の周囲が外骨症であった.

エックス線所見:全顎的に中等度の水平性骨吸収が認められ, 765  567と765  345  に垂直性骨吸収があり, 1 には歯根吸収, 6  には歯根破折と思われる骨欠損が根尖にまで及んでいた.

家族歴:両親とも当クリニックでメインテナンス中であり, 重度の歯周炎はない.

 

歯周組織再生療法エムドゲイン

歯周組織再生療法
エムドゲイン

 

診断:咬合性外傷を伴う広汎型中等度慢性歯周炎

 

治療計画:①歯周基本治療:口腔衛生指導(OHI), スケーリング・ルートプレーニング(SRP)  咬合調整

②再評価

③歯周外科治療:歯周組織再生療法

: インプラント

④再評価

⑤口腔機能回復治療

⑥サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)

治療経過:

1) 歯周基本治療

歯周基本治療で口腔衛生指導を行い, すべての歯にSRPを行い, 6 抜歯, 1プロビジョナルレストレーションに変更, 1 1 の幅径を合わせ, 側方運動時の臼歯部の咬合干渉を咬合調整し, 夜間はナイトガードを横着し, 3ヵ月後に再評価検査を行った. その際に, 765  567, 765  345 に4mm以上のポケットとBop(+)が認められた. 患者は治療に協力的で口腔衛生状態もPCR 8%と改善し良い状態が維持できていたため, 上顎左右側臼歯部・下顎右側大臼歯部・下顎左側小臼歯部に対して歯周外科の説明を行い同意を得て, EMD(Emdogain)と骨移植材(異種骨Bio-Oss )を用いた歯周組織再生療法を行うことにした.

 

歯周組織再生療法エムドゲイン

歯周組織再生療法
エムドゲイン

 

2) 歯周外科治療

下顎左側小臼歯部の歯周組織再生療法(2009.2.)において,  4 5 近心面に浅く広い2壁性の骨欠損が認められたが, リコール時にデンタルX線写真で骨欠損の部位に骨様不透過像を確認した(図5 ). また, 上顎左側臼歯部の歯周組織再生療法(2009.3.)において,  6頬側にエナメルプロジェクションがあり, 7遠心に広くて深い3壁性の骨欠損が認められたが,リコール時にデンタルX線写真で骨欠損の部位に骨様不透過像を確認した(図6 ). そして, 下顎右側臼歯部の歯周組織再生療法(2009.6.)において 7 6  間に広くて深いクレーター状の骨欠損が認められ, 6 頬側にエナメルプロジェクションもあったが, リコール時にデンタルX線写真で骨欠損の部位に骨様不透過像を確認した(図7 ). また, 上顎右側臼歯部の歯周組織再生療法(2009.8.)において,  7 6 近心に広くて深い2壁性の骨欠損が認められたが, リコール時にデンタルX線写真で骨欠損の部位に骨様不透過像を確認した(図8 ).

骨補填材は厚生労働省認可材料(Bio-Oss Geistlich社)を使用した.

 

歯周組織再生療法 エムドゲイン

歯周組織再生療法
エムドゲイン

歯周組織再生療法 エムドゲイン

歯周組織再生療法
エムドゲイン

 

 

3) インプラント治療

1 は, 骨量・骨質に問題がなく4壁性で, 感染もなく, 反対側同名歯よりも歯肉辺縁が1mm高位にあったため, 抜歯即時にてインプラント(ノーベルリプレイス4×10mm)の埋入(2010.3.)を行った( 図9 a~e ).  6 は, 歯根破折で抜歯後の骨吸収が予測されたため, Bio-Ossと自家骨を用いたリッジプリザベーションを行い(2008.11.), 1年6ヵ月後にインプラント(ノーベルリプレイス4×11.5mm)を1回法にて埋入(2010.5.)した(図10 a~d).

 

インプラント

インプラント

 

4) 口腔機能回復治療

1  6 ともに, インプラント埋入3ヵ月後にアバットメント( 図9 f, 図10 e )とプロビジョナルレストレーションを装着し, さらに3ヵ月後に最終補綴を装着した. インプラント補綴より3ヵ月後の再評価期間をおいて, SPTに移行した(2011.2.). また, ブラキシズムへの対応としてナイトガードを装着した.

5) SPT

現在は3ヵ月に一度の来院でSPTを継続している.が, 歯肉の発赤, 腫脹も認められず, 深い歯周ポケットも認められない. デンタルエックス線写真では, 一部骨様組織が認められる部位もあるが, 歯槽硬線の明瞭化も認められ骨の平坦化及び安定が図られた. 夜間においては, スタビライゼーション型スプリントの装着を行い, ブラキシズムに対応している. 6 7  に関しては, SPT移行1年後, 咬合調整を行った. 8年後の再評価(2019.2.)において, PPD 3mm以内,  BoP(+)は認められず, 歯周組織の状態は安定していた( 図11,12 ).  PCRは7 %であった.

 

歯周組織再生療法 エムドゲイン

歯周組織再生療法
エムドゲイン

 

 

 

考察1)歯周組織再生療法

歯周組織再生療法では, 術前の骨欠損の状態, 術後の再生された骨量を規格化されたエックス線撮影方法や測定器具で正確に評価することが大切である. 術前のデンタルエックス線写真において, 骨欠損の角度が22°以下であれば37°以上の場合と比較してEMDを用いた歯周組織再生療法の効果が期待できるとされる. また, 骨欠損形態が1壁性よりも3壁性のほうが歯周組織の再生は有利といわれているが, 今回は, クレーター状・1~2壁性・カップ状であったため, EMDと骨補填材を併用した歯周組織再生療法を選択した. それは, EMD単独で応用した場合, 歯肉弁を一次閉鎖できたとしても, EMDの物理的な性質上,スペース確保が困難なため, 軟組織の形態を維持し続けることは容易ではなく1~2壁性や広い骨欠損の形態によっては軟組織の陥没を生じてしまい良好な結果が得られない可能性もあったからである. さらに,1壁性骨欠損の部位はEMDと骨補填材に合わせて,術野・術後の安定のためにチタン強化型バリアメンブレンを併用することも検討しなければならない.

歯周組織再生療法の際に骨補填材を併用した場合, エックス線写真では不透過像として確認できるが, 失われた歯槽骨が再生されたわけではない.術後の経過観察において, エックス線写真の不透過像に加え,骨梁や歯槽硬線, 歯槽頂線の明瞭化などの重要な指標を加えて判断することがいいと考えている.  本症例においては, 歯周外科後のエックス線写真で, 骨欠損部に骨梁や歯槽硬線, 歯槽頂線が認められた.

今回このような良好な結果が得られた要因には, EMDと骨補填材を併用することでスペースメイキングを確実に行えたことがあげられる. 血流を考慮したフラップデザインを用いて減張切開を行い,縫合後に起こりうる裂開のリスクを最小限に抑えられた.

2)インプラント治療

本症例のような単独歯欠損を伴う歯周炎患者においてはインプラント治療を用いた補綴処置は有効な手法である. しかし, 歯周疾患の既往はインプラントの長期生存に関してのリスクファクターであると警告されていることより, その予防処置が重要となる. まずは, インプラント治療前に完全に歯周炎の炎症のコントロールを行っておくことが挙げられる. 具体的には, 残存するBoPを持つ5mm以上の歯周ポケットを排除しておくこと,フルマウス・プラークスコアを20%以下にしておくことなどが報告されている. また, インプラント治療後も厳格にコントロールされた, メインテナンスを行うことが重要である.

1 は打撲の既往があり, 歯根吸収のため歯冠歯根比が悪く, 動揺度は

Ⅱ度で保存不可能と判断した. ただ, 術前のCTから骨量・骨質に問題なく,歯肉辺縁が反対側同名歯より高位にあったため, 抜歯と同時にインプラントの埋入が行え, 審美的な補綴装置を装着できた.

6 は初診時に歯根破折が認められ, 垂直性骨吸収があったが, 抜歯と同時に歯槽堤保存術を行い, 1年6ヵ月の治癒期間後に歯槽骨の平坦化が図られ, インプラントは1回法で埋入でき, 術後何の問題もなく補綴物の装着ができた.

3)咬合性外傷

歯周病治療は歯周組織の回復, 再生および咬合の安定を図ることである. そして, 治療により獲得した歯周組織, 咬合関係をメインテナンスにて維持していくことが重要である. 咬合性外傷は歯周病の初発因子ではないが歯周病を進行させるといわれている.

本症例においても臼歯部に限局した垂直性骨欠損はプラークによる歯周組織の炎症と咬合性外傷が原因と考えられた. 垂直性骨欠損を有する歯は水平性骨欠損を有する歯より生存率が低いという報告もある. これらの考えを踏まえて, 側方運動時の臼歯部の咬合干渉を咬合調整し, 夜間はナイトガードを横着した. ナイトガードの圧痕から, 強いクレンチングが疑われたため, 認知行動療法も併用した.

 

     結論

広汎型重中等度慢性歯周炎患者に対して, 歯周基本治療後に残存した深いポケットの改善と歯周組織の再生を目的に歯周組織再生療法を行った. 歯周組織再生療法の際には, 歯周基本治療を行ったうえで, 歯周ポケットの深さ, 骨縁下欠損の深さ, 骨欠損の角度, および残存している骨壁などを考慮して, EMDと骨補填材の併用を選択し良好な治療結果が得られた. そして,単独歯欠損部においてはインプラント治療を用いて補綴処置を行い, 隣在歯の保護に努めた. また, 早期接触・側方運動時の臼歯部の咬合干渉を咬合調整し, 夜間はナイトガードを横着し,  強いクレンチングには認知行動療法を行い力のコントロールを行った. 今回このような咬合安定を図った上で再生療法を含めた外科治療を行うことで, 良好な結果を得ることができた.  ただし, 今後も定期的なSPTにより継続的管理が必要である.

 

このたびの論文提出に際して, 開示すべき利益相反状態はない.

参考文献

1)  Glicman et al. : Effect of occlusal forces upon the pathway of gingival inflammation in human. J Periodontol, 36(2):141-147, 1965

2)特定非営利活動法人 日本歯周病学会編:歯周治療の指針2015

医歯薬出版, 東京, 24-29,53, 2015

3)  Tsitoura E, Tucker R, Suvan J et al,: Baseline radiographic defect angle of the intrabony defect as a prognostic indicator in regenerative periodontal surgery with enamel matrix derivative.  J Clin Periodontol, : 31(8) 643-647 2004

4)  Froum S. Lemler J, Horowitz R, et al: The use of enamel matrix derivative in the treatment periodontal osseous defects : A clinical decision tree based on biologic principles Int J Periodontics Restrative Dent. 21(5):437-449 2001

5)  水上哲也ほか:基礎から臨床がわかる 再生歯科 成功率を高めるためのテクニックとバイオロジー クインテッセンス出版, 東京, 145-172, 2013

6)  Cortellini P, Tonetti M, : Clinical concepts for regeneration therapy in intra-bony defects. Periodontol 2000 : 68:282-307 2015

7)  Wen X, Liu R, Li G et al,: History of periodontitis as a risk factor for long-term survival of dental implants: a meta-analysis. Int J Oral Maxillofac Implants, 29(6): 1271-1280, 2014

8)  Heintz-Mayfield  LJ, Needleman I, Salvi GE et al.: Consensus statements and clinical reco mmendations  for prevention and management of biologic and technical implant complications. Int J Oral Maxillofac Implants, 29 Suppl: 346-350, 2014

9)  Papapanou PN et al.: The angular bony defect as indicator of further alveolar bone loss. J Clin Periodontol, 18(5): 317-322, 1991

10) 池田雅彦ほか:力のマネージング 力のコンプレックスシンドロームを超えて.  医歯薬出版, 東京, 16-21, 2015

 

歯周組織再生療法エムドゲイン

歯周組織再生療法
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歯周組織再生療法
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インプラント

インプラント

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歯周組織再生療法
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かわさと歯科・矯正歯科

日本歯周病学会専門医・指導医

院長 川里 邦夫

 

 

 

 

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