JOP投稿論文3
2024年4月5日
JOP投稿論文2
セットアップモデルの重要性 ~いつ矯正装置をはずすのか~
「どこそこの医院で矯正しました。虫歯を治してください。」と
矯正専門医から一般歯科へ、矯正後の患者がよく来院する。
矯正専門医の紹介の場合もあれば、患者自身で検索して来院する場合もある。
ただ、矯正後の仕上がりは芳しくない。というのは、見た目はまっすぐ並んではいるものの、
1、前歯が噛んでない
2、犬歯はガイドになっていない
3、臼歯咬合面は真っ平らである
なぜ、こんな仕上がりなのか。その原因として術前の診断不足が考えられる。
単に、口腔内を見て、並びそうと思うだけで治療に入っているからではないか。
Ⅰ級叢生なら簡単だと考えているからではないか。セファロ分析、ボルトン分析だけで判断してないか。
やはり、セットアップモデルを作る必要があると考える。
簡単そうな症例においてこそセットアップ模型を作るべきだと思う。
その結果、簡単そうに見えても結構、理想的には並べられないことが多いことが判明した。
それは、元々の歯の形態的要素が理想的でない事が多い。
つまり、矯正単独では、理想的なアンテリアガイダンスやバーティカルストップが得られるとは限らないケースが多いということである。
そのため、セットアップモデルは、矯正治療においては、必須のものと考える。
セットアップモデルとは
「矯正治療を行うにあたって、口腔模型により個々の歯を移動させ、動的処置後の咬合状態を予測する目的に使用される模型。
診断や治療のため(抜歯部位の検討、歯の移動の方向と量を知る)と、
装置製作(トゥースポジショナー、ワイヤーの屈曲)のための使用目的がある。」(歯科矯正学辞典 亀田 晃 1996)
「石膏模型から、歯の部分を切り離したのち、正しい歯列弓形態となるよう再配列した模型。
審美的にも満足でき、機能的にも優れた咬合をつくりあげるためには、どのような歯の移動を行い、
歯冠の形態をどの様に整え、架工歯のための空隙をどこに、どの様に作るかといった問題を正確にとらえることができる。」
(プロフィトの現代歯科矯正学 1989)
ただし、理由は不明であるが、2004年の改訂版には、セットアップの項目は本文からなくなっている。
セットアップモデル作製時の着目点
1.最遠心の臼歯が残されている
歯列弓幅径を変えたくないため
スペースの量を知りたいため
2.歯牙の形態のみによって左右され、理想的な位置に排列する
歯牙はどんな方向にも、どんな移動様式も可能であると規定
最上級の仕上がりの確認と限界を知るため
3.顆頭位は中心位 CRで、その位置は変化しない
下顎が偏位すると、その偏位量の予測ができないため
4.咬合高径は変化しない
咬合高径の変化量が予測できないため
5.以上の条件下で、上下顎前歯犬歯のカップリングはどうなるか?
セットアップモデル作製時の指標
1.上顎中切歯の傾斜角は、FH平面に対して111°
2.上顎中切歯の切縁の位置は、上口唇下縁を参考
3.審美的指標として、顔面の正中と上顎中切歯の一致
(上下顎中切歯の正中の一致ではない)
4.機能的指標として、アンテリアカップリング
上下顎前歯犬歯の被蓋関係。
上顎前歯犬歯舌面中央部1/3に接触、
上顎前歯犬歯舌側凹面に均等に接触する。
5.機能的指標として、バーティカルストップ
咬頭嵌合位を長期に安定させるために必要なもの。
上顎舌側機能咬頭が下顎咬合面窩に勘合する
アンテリアガイダンスとは
アンテリアガイダンスとは、非機能運動時に上下顎前歯犬歯部の接触が下顎運動の方向と量を決めるための指導的作用。
その役割は、咀嚼ストローク(機能運動時)を垂直的に制御し、臼歯部離開咬合(非機能運動時)を作ること。
(臨床歯周補綴Ⅰ、Ⅱ 1990.1992 山崎長郎、本多正明 )
もし欠如していれば、偏心運動中の咬合力によって発生する水平圧は、臼歯に非生理的なストレスを加えるため有害である。
(咬合学辞典 保母須弥也 1998)
その結果、顎関節に(逆Ⅲ級テコ)、臼歯に、負担支持組織に負担がかかることになる。
アンテリアカップリングは得られても、アンテリアガイダンスが確立できるとは限らない。
つまり、被蓋が浅いと、誘導部が短すぎるし、ルームがなくなるからである。
アンテリアガイダンスを確立するには、ある程度の被蓋の深さが必要になる。
ただし、上下顎前歯犬歯部の被蓋の深さであり、上下顎前歯部の被蓋の深さのことではない。
バーティカルストップとは
下顎位を長期にわたって安定させるために必要なもので、咬頭嵌合位を垂直的にも、水平的にも維持することをいう。
バーティカルストップを確立するためには、1.動揺がない 2.適切なプロキシマルコンタクト
3.適切なオクルーザルコンタクト が必要になる。
そのため、矯正終了時には、1.動揺のない様に、装置除去の方法と時期を考慮する
2.バンド等のスペースを装置除去時には無くしておく 3.適切な歯冠形態である
ことが、装置除去の必須条件となる。3.に関しては、ケースによっては、保存・補綴処置が必要になることがある。
獲得すべき適切なオクルーザルコンタクトの位置は、下記となる。
セットアップモデルの目的
セットアップ作製の目的は、以下4項目がある。
1、診断用
矯正単独での治療が可能なのか、あるいは外科矯正になるのか、
また、保存・補綴処置が必要なのかを診断するため。
2、治療予測用
矯正後の、咬合状態、審美性などを診断・予測するため。
3、ブラケットポジショニング用
舌側矯正だけでなく、唇側矯正においても、ブラケットポジショニングのために使用する。
そのことによって、治療の精度が向上する。
4、歯冠形態修正用
審美的理由からの前歯の形態修正、機能的理由からの咬合面の形態修正のために用いる。
症例
1、セットアップ上で適切なアンテリアガイダンスが確立できないケース
26才 女性 右下4冷水痛を主訴に来院。
Ⅰ級叢生。失活歯である上顎左右5、左下5、右下4を抜歯。
セットアップどうり並んだが、上顎中切歯が元々短いため、浅い咬合になる。
平均長10.5mm(このケースは9.0mm)のため、上顎中切歯をベニアにて長くする
しかない。矯正的挺出を行うと歯頚線が揃わなくなる。
模型上で、理想的な歯冠長にワックスアップし、
口腔内にてシリコンインデックスからデュプリケートし、歯冠長を1.5mm長くする。
矯正とラミネートベニアによって、理想的なアンテリアガイダンスとバーティカルストップが得られた。
本ケースにおいて、矯正単独で施術した場合、短い歯冠長のため、審美的な結果は得られず、
良好なアンテリアガイダンスは獲得できなかったと予想される。
また、ブラキサーであるため、リテイナーの代わりとして、ナイトガードを使用している。
セットアップモデルを作製しない理由
こういったケースでは、理想的なアンテリアガイダンスとバーティカルストップを矯正単独で獲得することは不可能である。
しかし、現状はそうではない。なぜ、セットアップを組まないのか。それは、
- 自分のポジショニングに自信を持っているので、その必要性を認めない。
- 経験的に今までやってきたことだから、多少まずくても、ワイヤーベンディングで十分カバーできる。
- 自分でセットアップするなら,全症例なんかとてもできない。 したくない。
- 技工所へ全症例出すならお金が大変。
リンガルならともかく、ポジショニングのためだけにはとても出せない。
といった理由からだと考えられる。しかし、
セットアップモデルは、手間 ?
セットアップモデルは、高価 ?
ストレートワイヤーテクニックでは、ワイヤーベンディングを極力避けたほうが良いのでは ?
歯牙形態要素のみで排列しても理想的にはならないのに ?
セットアップモデルを作製しないのは、術者側の理由としか考えられない。
大阪市北区曽根崎新1-4-20桜橋IMビル4F
かわさと歯科・矯正歯科
日本歯周病学会専門医・指導医
院長 川里 邦夫