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臨床歯周病学会投稿論文2

2023年12月19日

垂直性骨欠損のある上下顎前犬歯部にMISTを用いた症例

       

 Treatment of vertical bone defect by minimally invasive surgical technique

  in the upper and lower incisors /caninesA case report

川里 邦夫

KAWASATO  Kunio

キーワード:垂直性骨欠損、歯間乳頭保存術、フラップデザイン、再生材料

 

諸言    

最近, 歯科においてMI(Minimally Invasive Treatment)がよく取り上げられるが, 歯周組織再生療法においても最小限の切開,剥離を行うことで, より良好な治癒, 再生が得られるとするMIST(Minimally Invasive Surgical Technique)という手法が報告されている.

今回は広汎型重度慢性歯周炎患者の上下顎左側犬歯部, 上下顎右側中切歯部に, MIST用いて再生療法を行った経過良好な症例を報告する.

症例の概要

患者:51歳, 男性

初診:2017年8月

主訴:歯周病の治療をしてほしい.

全身的既往歴:特記事項なし, 非喫煙者.

歯科的既往歴:今まで3年間他の歯科医院にて矯正歯科治療を受けていたが, 矯正専門の医院で歯周病の治療は行っていない.

家族歴:両親とも重度の歯周炎はない.

口腔内所見:口腔衛生状態は不良. すべての歯に, 歯肉の発赤・腫脹が認められた(図1).  1  3 6 7 , 7 6 1  3 7 ,には6mm以上のプロービング値(PPD)が認められ,  5 4 2  1 2 4,  3 4 5にⅠ度, 1 に Ⅱ度の動揺があった(図2). 4mm以上の歯周ポケットは41.7%,BoP陽性率は70.2%,PCRは100%であった. 上下顎左右側臼歯部に修復補綴物があるが, 辺縁は適合し二次う蝕もなく問題はなかった.

エックス線所見:全顎的に中等度の水平性骨吸収が認められ, 1  3と1  3に垂直性骨吸収があり,特に1  3には根尖にまで骨欠損がおよんでいた(図2).

 

 

歯周組織再生療法 エムドゲイン

歯周組織再生療法 エムドゲイン

 

診断:広汎型重度慢性歯周炎.

 

治療計画

①歯周基本治療:口腔衛生指導(OHI),スケーリング・ルートプレーニング(SRP) 咬合調整

②再評価

③歯周外科治療:歯周組織再生療法

④再評価

⑤口腔機能回復治療

⑥サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)

 

歯周組織再生療法 エムドゲイン

歯周組織再生療法 エムドゲイン

歯周組織再生療法 エムドゲイン

歯周組織再生療法 エムドゲイン

 

治療経過:歯周基本治療で口腔衛生指導を行い, すべての歯にSRPを行い,側方運動時の臼歯部の咬合干渉を咬合調整し, 夜間はナイトガードを横着し, 3ヵ月後に再評価検査を行った. その際に, 1  3,  1  3 に7mm以上の歯周ポケットとBoP陽性が認められた(図3,4). 患者は治療に協力的で口腔衛生状態もPCR 9%と改善し良い状態が維持できていたため, 上下顎左側犬歯と上下顎右側中切歯に対して歯周外科の説明を行い同意を得て, エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)と骨移植材(異種骨Bio-Oss, Geistlich社 )を用いた歯周組織再生療法を行うことにした.下顎左側犬歯部の歯周組織再生療法(2019.2)において,  3 遠心に深くて広い2壁性の骨欠損が認められたが,  3 4 歯根間距離が2mm以上認められたため, 歯冠乳頭部の頬側寄りに切開を加え, 歯冠乳頭部歯肉を歯冠乳頭保存術(modified papilla preservation technique)にて舌側に剥離し,歯肉を拳上するのみにとどめ, 頬側は歯槽骨頂部が見える最小限の剥離とした. 掻把・SRP後, EMDと骨補填材を使用し, PTFE糸(Osseo Guard PTFE Sutures USP4-0 , Zimmer Biomet社)を用いて, 垂直マットレス縫合変法1針, 単純縫合1針にて縫合した(図5). また, 上顎左側犬歯部の歯周組織再生療法(2019.4)において,  3 近心に深くて広い2壁性の骨欠損が認められたが,  2 3 歯根間距離が2mm以上認められたため, 歯冠乳頭部の頬側寄りに切開を加え, 歯冠乳頭部歯肉を歯冠乳頭保存術(modified papilla preservation technique)にて口蓋側に剥離し,歯肉を拳上するのみにとどめ, 頬側は歯槽骨頂部が見える最小限の剥離とした. 掻把・SRP後, EMDと骨補填材を使用し, ポリプロピレン糸(PROLENE 5-0 , ETHICON社)を用いて, 垂直マットレス縫合変法1針, 単純縫合2針にて縫合した(図6).そして, 下顎右側中切歯部の歯周組織再生療法(2019.7)において,  1 遠心に深くて広い2壁性の骨欠損が認められたが,  2 1 歯根間距離が2mm以上認められたため, 歯冠乳頭部の頬側寄りに切開を加え, 歯冠乳頭部歯肉を歯冠乳頭保存術(modified papilla preservation technique)にて舌側に剥離し,歯肉を拳上するのみにとどめ, 頬側は歯槽骨頂部が見える最小限の剥離とした. 掻把・SRP後, EMDと骨補填材を使用し, ポリプロピレン糸(PROLENE 5-0 , ETHICON社)を用いて, 垂直マットレス縫合変法1針, 単純縫合2針にて縫合した(図7). さらに, 上顎右側中切歯部の歯周組織再生療法(2019.10)において,  1 近遠心に深くて広い2壁性の骨欠損が認められたが,  2 1 , 1 1 歯根間距離が2mm以上認められたため, 歯冠乳頭部の頬側寄りに切開を加え, 歯冠乳頭部歯肉を歯冠乳頭保存術(modified papilla preservation technique)にて口蓋側に剥離し,歯肉を拳上するのみにとどめ, 頬側は歯槽骨頂部が見える最小限の剥離とした. 掻把・SRP後, EMDと骨補填材を使用し, 吸収性縫合糸(MONOCRYL 5-0 , ETHICON社)を用いて, 垂直マットレス縫合変法2針, クロスマットレス縫合1針にて縫合した. その際、上唇小帯を剥離移動した(図8). 骨補填材は厚生労働省認可材料(Bio-Oss, Geistlich社)を使用した.

歯周外科より3ヵ月の再評価期間をおいて, SPTに移行した(2020.1). 7ヵ月後の再評価(2020.8)において, PPDは 3mm以内, BoP陽性は認められず, 歯周組織の状態は安定していた. PCRは8.5%であった.

 

歯周組織再生療法 エムドゲイン

歯周組織再生療法 エムドゲイン

 

考察

歯周組織再生療法を成功させるためには, ①血餅の安定 ②スペース ③創の閉鎖が鍵となると言われている. そのためには, 歯間乳頭を保存し, 創を確実に閉鎖し保護するためのフラップデザインが必須条件となる. 歯冠乳頭を保存するためにmodified papilla preservation techniqueを用い, フラップデザインはMISTにて最小限の切開・剥離を行った. また, 2壁性骨欠損であったため, EMDと骨補填材を併用した. それは, EMD単独で応用した場合, 歯肉弁を一次閉鎖できたとしても, EMDの物理的な性質上,スペース確保が困難なため, 軟組織の形態を維持し続けることは容易ではなく, 軟組織の陥没を生じてしまい良好な結果が得られない可能性もあったからである. さらに, 垂直マットレス変法は, 単体でも創の安定と一次閉鎖の獲得に非常に効果的であった. その際に, 歯肉の厚さ・幅・性状によってPTFE糸とポリプロピレン糸を使い分けし, 上唇小帯移動には抜糸時の疼痛を考慮して吸収性縫合糸を使用した. 本症例においては, 歯周外科後リコール時のエックス線写真で, 骨欠損部に骨梁や歯槽硬線, 歯槽頂線が認められた.

今回このような良好な結果が得られた要因には, 歯間乳頭を保存し, 血流を考慮したフラップデザインを用いて, 縫合後に起こりうる裂開のリスクを最小限に抑えられたことがあげられる. そして, EMDと骨補填材を併用することでスペースメイキングを確実に行えたこともあげられる.

結論

広汎型重度慢性歯周炎患者に対して, 歯周基本治療後に残存した深いポケットの改善と歯周組織の再生を目的にMISTを用いた歯周組織再生療法を行った. 歯周基本治療を行ったうえで, 歯周ポケットの深さ, 骨縁下欠損の深さ, 骨欠損の角度, および残存している骨壁などを考慮して, 歯間乳頭を保存し, 最小限の切開・剥離を行い, EMDと骨補填材の併用を選択し良好な治療結果が得られた. ただし, 今後も定期的なSPTにより継続的管理が必要である.

このたびの論文提出に際して, 開示すべき利益相反状態はない.

参考文献

1)  Cortellini P, Tonetti MS. A minimally invasive surgical technique with an enamel matrix derivative in the regenerative treatment of intra-bony defects : a novel approach to limit morbidity. J Clin Periodontol 2007 ; 34(1) : 87-93.

2)Cortellini P et al.: Single minimally invasive surgical technique with an enamel matrix derivative to treat multiple adjacent intra-bony defects : clinical outcomes and patient morbidity. J Clin Periodontol 2008 ; 35(7) : 605-813.

3) Cortellini P, Tonetti MS. Improved wound stability with a modified minimally invasive surgical technique in the regenerative treatment of isolated interdental intrabony defects : a novel approach to limit morbidity. J Clin Periodontol 2009 ; 36(2) : 157-163.

4)  Cortellini P et al.: Minimally invasive surgical technique and enamel matrix derivative in  intrabony defects : 2. Factors associated with healing outcomes. Int J Clin Periodontics Restrative Dent 2009 ; 29(3) : 257-265.

5) Cortellini P et al.: The modified minimally invasive surgical technique. A new surgical approach for interproximal regenerative procedures. J Periodontol 1995 ; 66(4) : 261-266.

6)  Laurell L. Guided tissue regeneration in clinical studies : a review. In : Hugoston A, Lundgren B・ed. Guided periodontal tissue regeneration. Sweden : Institute for Postgraduate Dental Education, 1995 ; 68-90

7)  Tonetti MS. 歯周組織再生外科治療において失敗を防ぎ予知性を高める方策 日本臨床歯周病学会誌 2014 ; 32(2) : 65-71

 

 

 

 

 

                                    

 

歯周病

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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