矯正治療、私もやった方がいいんでしょうか?
2024年2月2日
矯正治療、私もやった方がいいんでしょうか?
ブラッシング指導をしていた患者さんにいきなり尋ねられました。
この患者さんは26歳の女性、上顎前歯部の歯肉炎と虫歯治療を訴えて来院された看護師さんです。
口腔内は上下前歯部に若干の叢生があり、下顎第二小臼歯には虫歯があります。
確かに清掃性は悪そうですが、フロッシングをきちんと行えばプラークコントロールについては特に問題はななそうです。
患者さんは現在の歯並びに対してそれほど不満はないのですが、下顎第三大臼歯が萌出してきてから下顎前歯の叢生が気になり始めたそうです。
急に相談を受けた歯科衛生士は、なんと答えたら良いか戸惑ってしまいました。どう答えましょうか。
歯が混雑している状態の叢生では、虫歯が増加します。すなわち、混雑している量が多ければ清掃性も悪くなり、
結果として虫歯や歯周病の問題が引き起こされやすくなってしまうのです。
このような考え方は、一見極めて自然ですし、患者さんにも支持されやすいと思われます。
ただし、虫歯にしても歯周病にしても、その病態は感染症であり、発症の原因は細菌です。
確かに叢生は、歯列にプラークが堆積しやすい環境を与え、感染症のリスクをあげていますが、
根本的にはいかにプラークコントロールを行っているかということの方が重要度が高いと言えます。
つまり、歯並びを改善することは、虫歯や歯周病から逃れられる免罪符を買ったことにはならないのです。
通常よくみられる軽度の叢生であれば、むしろ一人一人の患者さんのプラークコンロールや生活習慣の方が重要な要素となっているのです。
言い換えれば、多少の叢生があったとしてもきちんとした知識を持って、
フロスや歯間ブラシを含めたプラークコントロールを実行していけば、問題が起きることは少ないということです。
もちろん十分な清掃のできている人でも歯並びはいいのに越したことはありません。
矯正治療で歯並びを整えるということは、都市の区画整理をするようなものです。
同じ時間しか磨いていない人同士でしたら、混雑のない人の方がプラークコントロールは結果としてやりやすくなり、
虫歯や歯周病のリスクは確実に下がります。
また、現実に矯正治療で歯を動かしていると、それまで隠されて見えなかった虫歯や歯石を発見することがよくあります。
歯並びのいい人でも虫歯や歯周病にはなりますし、まずプラークコントロールありきで、
次に環境を整える因子として矯正が存在すると考える方が妥当でしょう。
当たり前のようですが、虫歯や歯周病を予防するのは矯正治療ではなく、プラークコントロールなのです。
(歯科衛生士のための矯正学 歯科衛生士 Vol.27 No.4/2003 参照)