最近、出っ歯になってきたんです
2024年1月29日
最近、出っ歯になってきたんです
歯石除去を希望してこられた50歳女性です。
患者さんが今回歯科にこられた理由が他にもう一つありました。
それは、最近毎日口紅を塗る時に、前歯がどんどん前に出てきたように感じるということでした。
目次
昔はこんなに出っ歯ではなかったはずだと、10年前の顔写真も持参されていました。
確かに現在は口唇を閉じようとしても、上の前歯が出てしまい、昔の写真の口元は今よりスッキリした感じがします。
口腔内は歯石やプラークの沈着が見られ、歯周病がかなり進行しているのが一目瞭然でした。
上の前歯には隙間があり、下の前歯には叢生があります。
できればというより、ぜひ出っ歯を治したいと患者さんは希望しています。
また、この患者さんのお子さんは、2年かけて矯正治療をしていました。
やっぱり子供がしているような矯正の装置をつけるんでしょうか?と、聞かれた担当の歯科衛生士は、
こんなに骨吸収しているケースで矯正ができるのだろうかと思っていました。
さて、以前は咬合に問題がなくても、骨破壊が進行したことにより病的に歯が移動してしまっているようなケースでは、
矯正の適応をどのように判断するべきなのでしょうか?
元々問題のなかった歯並びなのに口腔内に何んらかの問題を起こし、それが原因で後天的に歯が移動してしまうことを、病的歯牙移動と言います。
この患者さんは、上の前歯の出っ歯と空隙を主訴に来院されていますが、これは病的歯牙移動の一つですが、臨床ではよく遭遇します。
そもそもこのような移動を引き起こしている原因は前歯ではなく奥歯にあるようです。
この患者さんの奥歯は前に傾斜し、被せ物が多く装着されています。そして、全顎的に歯周病が進行し、骨の破壊が生じています。
典型的なフレアリング症例(上の前歯が出っ歯になる)では歯周病と密接に関係していることが多く、
骨の吸収により、咬合力を支えている奥歯が、抜けてしまたり、前に傾いたりします。
その結果、奥歯の咬合高径(高さ)を低下させ、下顎は閉じ、前に移動します。そして、上の前歯を下の前歯が突き上げてしまいます。
患者さんが出っ歯になったと感じたのは、直接的に上の前歯を下の前歯が突き上げているからです。
患者さんの主訴の改善には、矯正治療で上の前歯を後に引くことが最善の治療法になりますが、
その前提として歯周病の治療、奥歯の傾斜を改善する、などのアプローチが必要となります。
患者さんが矯正装置を装着し、治療に時間がかかることを受け入れられるのであれば、治療結果の向上のためのも、矯正治療は適応ということになります。
(歯科衛生士のための矯正学 歯科衛生士 Vol.27 No.4/2003 参照)
大阪市北区曽根崎新1-4-20桜橋IMビル4F
かわさと歯科・矯正歯科
日本歯周病学会専門医・指導医
院長 川里 邦夫