えー、私が矯正するんですか?
2024年1月28日
えー、私が矯正するんですか?
20歳女性の大学2年生、舞ちゃん。右側の顎関節の痛みを主訴に来院されました。
口腔内の叢生はほぼなく、上下の歯並びは綺麗で、笑った時の口元もバランスよく見えました。
しかし、噛み合わせを見てみると、奥歯は噛んでいるのですが、前歯は当たっていません。
前歯で麺類やハンバーガーをサクサク噛み切った経験はないとのことでした。
本人に自覚症状はありません。
全体的に日常の食生活で不自由は感じていないとのことです。
右側の顎関節は口を開けると音がなり、右側の顎関節を押すと痛みがあるとの事でした。
ある時担当の歯科衛生士が、天然歯を削ってクラウンを被せて噛ませる訳にもいかないし、矯正が必要と話したところ、
20歳女性の大学2年生、舞ちゃんは非常に驚いて、えー、私が矯正するんですか?と言いました。
さて、このように叢生もなく、口元も綺麗で、さらに咀嚼にも問題がないケースで、
前歯が噛んでいないというだけで矯正治療は必要なのでしょうか?
こういった状態を開口と言いますが、前歯は物理的に接触していないので、不普通に考えて噛みきれないと考えます。
また、開口の場合、アンテリアガイダンスの欠如といった問題が出てきます。
歯列の中で。歯は大まかに前歯と奥歯」に分けられます。犬歯はその間のコーナーに位置します。
人はものを噛むときに50キロくらいの力を使っていると言われています。
こらはほぼその人の体重と同じ力が歯にかかっていることに匹敵します。
一見小さく華奢に見える歯でも、特に奥歯には非常に大きい力を支える能力があるということになります。
しかし、これはあくまでも歯軸に対して力が加わった場合のことで、逆に歯軸に対して横から力が加わった場合、歯は非常に脆弱です。
食事中に間違って砂つぶのような小さくて硬いものを噛んでしまった経験はないでしょうか。
この時驚くほど歯は痛みを感じ、その痛みのせいで反射的に噛むことをやめます。
小さい砂つぶは歯を急激に横に振ってしまうため強い痛みを発するからです。つまり、歯は横方向の力には非常に弱いのです。
咀嚼中は、顎は縦にも横にも3次元的に動きます。通常この横の動きは前歯が支えることになりますが、
前歯特に犬歯は横方向の動きに対して抵抗力があります。
開口の場合、顎をどう動かしても前歯に接触がないため、横の動きに弱い奥歯が受け止めなくてはなりません。
つまり、開口の方は顎の縦横の動きを前歯と奥歯で分担して受け止めることができず、奥歯に負担がかかりやすい状態になっています。
(歯科衛生士のための矯正学 歯科衛生士 Vol.27 No.4/2003 参照)