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臨床歯周病学会投稿論文6

2023年12月28日

下顎臼歯欠損を伴った重度慢性歯周炎に対するアプローチ       

Approach to lower posterior teeth loss case

with severe chronic periodontal diseases

 

かわさと歯科・矯正歯科  川里 邦夫

KAWASATO  Kunio

 

キーワード:欠損歯列, 重度慢性歯周炎, 二次性咬合性外傷

 

諸言  

重度慢性歯周炎のために咬合崩壊した欠損歯列においては, 重度慢性歯周炎により歯自体の支持力が低下しているうえに, 歯数の問題により、生理的な咬合力でも 歯には外傷的な力となることがある.

今回, 重度慢性歯周炎のために咬合崩壊した欠損歯列症例に対して,歯周基本治療で細菌性炎症因子を除去し, 歯周外科を行い, その後に二次性咬合性外傷を防ぐため, 固定式・可撤式補綴装置を用いて, 咬頭嵌合位を獲得し, 側方運動時の臼歯離開を図り咬合を安定させ, 良好な結果が得られた症例を報告する.

 

症例の概要

患者:64歳, 女性

初診:2015年 4月

主訴:右上奥歯が噛むと痛い, 入れ歯が動く

全身的既往歴:特記事項なし, 非喫煙者.

歯科的既往歴:上顎右側大臼歯が1年前から違和感があった. 他の歯科医に通っていたが, 歯周治療は受けたことがなかった. 1ヵ月前から咬合痛を認めた. 補綴装置は10年程前に作製した.

口腔内所見:口腔衛生状態は不良. 全歯の歯肉の発赤・腫脹が認められた. 7 6 3  6 7  5 には6mm以上のポケットが認められ,  3 にⅡ度の 2 1 1   4  にⅠ度の動揺があった. 4mm以上のポケットは34.1%, Bop陽性率は55.6%, PCRは100%であった. また, 上下顎臼歯部に歯冠補綴装置が装着されていたが, 辺縁は不適合で2次カリエスが認められた. 下顎臼歯欠損部には可撤式義歯が作製されていたが不適合であった. 咬合関係はAngle クラスⅠで上下顎前歯部に叢生が認められた. 口蓋隆起・下顎骨隆起が顕著でブラキシズムの自覚があった. 4  4  7 6  5 6 7 は欠損していた.

エックス線所見:全歯にわたって中等度の水平性骨吸収が認められ, 7 6  6  に垂直性骨吸収があり,  7  は根尖にまで骨欠損が及んでいた.

 

歯周炎歯肉炎

歯周炎
歯肉炎

歯周炎歯肉炎

歯周炎
歯肉炎

 

診断:広汎型慢性歯周炎  (ステージⅣ グレードB)

 

治療計画:①歯周基本治療:口腔衛生指導(OHI), スケーリング・ルートプレーニング(SRP),

プロビジョナルレストレーション  暫間義歯    咬合調整

抜歯  ナイトガード装着

②再評価

③歯周外科治療: 歯周組織再生療法

④再評価

⑤口腔機能回復治療

クラウン・ブリッジ

パーシャルデンチャー

⑥サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)

 

治療経過:

1) 歯周基本治療:(2015. 4.~2016.1)

歯周基本治療で口腔衛生指導を行い, すべての歯にSRPを行い, 7 6 5 4 3  3 4 5 6  5 4  4 にプロビジョナルレストレーションを装着し, 側方運動時の前歯部の咬合干渉を咬合調整し、7 6  5 6 7 に暫間義歯を装着した. 夜間はナイトガードを装着し, 3ヵ月(2016. 1.)後に再評価検査を行った. その際に,  76  6 に4mm以上のポケットとBop陽性が認められた.  7 は根尖にまで骨吸収がおよび保存不可能であった. 患者は治療に協力的で口腔衛生状態もPCR 9.8%と改善し良い状態が維持できていたため, 上顎左右側大臼歯部に対して歯周外科の説明を行い同意を得た.

2) 歯周外科治療(2016 .1) (2016. 45)

8mmのポケットのある上顎右側第一大臼歯・6mmのポケットのある上顎右側第二大臼歯において,  深く広いクレーター状の骨欠損が認められたため, EMD(Emdogain)と骨移植(異種骨Bio-Oss )を用いた歯周組織再生療法を施術した(2016.1.). 歯根間距離が2mm以上認められたため, 歯間乳頭部の舌側寄りに切開を加え, 歯間乳頭部歯肉を歯間乳頭保存術(modified papilla preservation technique)にて頬舌側に剥離し,歯肉を翻転拳上し, 頬舌側の歯槽骨頂部を超える剥離とした. 上皮と結合組織の掻把・SRP後, EMDと骨補填材を使用し, PTFE糸(Osseo Guard PTFE Sutures USP4-0 ,Zimmer Biomet社)を患者の同意を得て使用し, 垂直マットレス縫合変法1針, 単純縫合2針にて縫合した(図5)

また, 6mmのポケットのある上顎左側第一大臼歯において,  遠心部に深く広い3壁性の骨欠損が認められたため, EMD(Emdogain)と骨移植(異種骨Bio-Oss )を用いた歯周組織再生療法を施術した. 歯根間距離が2mm以上認められたため, 遠心は歯間乳頭部の舌側寄りに切開を加え, 近心は歯間乳頭部の頬側寄りに切開を加え, 歯間乳頭部歯肉を歯間乳頭保存術にて頬舌側に剥離し,歯肉を翻転拳上し, 頬舌側の歯槽骨頂部を超える剥離とした. 上皮と結合組織の掻把・SRP後, EMDと骨補填材を使用し, PTFE糸を用いて, 垂直マットレス縫合変法2針, 単純縫合3針にて縫合した(図6)

 

歯周外科再生療法

歯周外科
再生療法

 

3) 口腔機能回復治療(2016. 11~2017.1)

歯周外科より6ヵ月後の再評価期間をおいて, 上顎には陶材焼き付け鋳造冠を装着した. 歯周組織再生療法を行った上顎右側第一・第二大臼歯は, 動揺は認められないが水平的骨吸収が存在したため, 連結した. 543はブリッジとした. そして, 同様に歯周組織再生療法を行った上顎左側第一大臼歯にも, 動揺は認められないが水平的骨吸収が存在したため, 345ブリッジと連結した( 図7). また, 下顎には陶材焼き付け鋳造冠(サベイドクラウン)を単冠にて装着し, 欠損部に可撤式補綴装置を装着し, 残存歯の二次固定を図った( 図8).

5) SPT(2017. 4.)

最終補綴より3ヵ月後の再評価期間をおいて, SPTに移行した(2017.4.)( 図9). そして, 口蓋正中隆起・下顎隆起が顕著であったため, ブラキシズムへの対応としてナイトガードを装着した.

現在は3ヵ月に一度の来院でSPTを継続しており, 歯肉の発赤, 腫脹は認められず, 深い歯周ポケットも認められない. デンタルエックス線写真では, 歯槽硬線の明瞭化も認められ骨の平坦化及び安定が図られた( 図10). 夜間においては, スタビライゼーション型スプリントの装着を行い, ブラキシズムに対応している. 下顎左側第一小臼歯に関しては, SPT移行1年後, 咬合調整を行った. 4年9ヵ月後の再評価(2022.1.)において, PPDは 3mm以内,  BoP陽性率は2.2%, 動揺歯はなく, 歯周組織の状態は安定していた.  PCRは8 %であった.

 

入れ歯構造設計

入れ歯
構造設計

 

歯周炎再生療法

歯周炎
再生療法

 

考察

1)歯周外科治療

歯周組織再生療法を成功させるためには, ①血餅の安定 ②再生スペース ③創の閉鎖が鍵となると言われている. そのためには, 歯間乳頭を保存し, 創を確実に閉鎖し保護するためのフラップデザインが必須条件となる. 歯間乳頭を保存するためにmodified papilla preservation techniqueを用いた. また, 広く深い骨欠損であったため, EMDと骨補填材を併用した. EMD単独で応用した場合, 歯肉弁を一次閉鎖できたとしても, EMDの物理的な性質上,再生スペース確保が困難なため, 軟組織の形態を維持し続けることは容易ではなく, 軟組織の陥没を生じて良好な結果が得られない可能性もあったからである. 垂直マットレス変法は, 創の安定と一次閉鎖の獲得に非常に効果的であったが, さらに緊密に閉鎖をおこなうため, 単純縫合を追加した. 本症例においては, 歯周外科後SPT時のエックス線写真で, 骨欠損部に骨梁や歯槽硬線, 歯槽頂線を認めた.

良好な結果が得られた要因には, 歯間乳頭を保存し, 血流を考慮したフラップデザインを用いて, 縫合後に起こりうる裂開のリスクを最小限に抑えられたことがあげられる. そして, EMDと骨補填材を併用することでスペースメイキングを確実に行えたこともあげられる.

2)口腔機能回復治療

咬合性外傷は歯周炎の初発因子ではないが歯周炎増悪の局所修飾因子といわれている. その原因は, 歯列不正・早期接触・咬合干渉・ブラキシズム・過剰な咬合力・側方圧・舌と口唇の悪習癖・食片圧入などであるが, 本ケースにおける臼歯部に限局した骨欠損はプラークによる歯周組織の炎症と過剰な咬合力・ブラキシズムによる咬合性外傷が原因と考えられた. 本ケースにおいては, 適切な咬頭嵌合, 側方運動時の臼歯離開を図り, 咬合を安定させ臼歯部の咬合負担を軽減することが第一の目的で, 口腔機能回復治療を行った.

上顎の第一小臼歯の欠損は一歯欠損で支台歯への負担過重は多くないと判断し,た. 上顎左側第一大臼歯には動揺は認められないが水平的骨吸収が存在しため陶材焼き付け鋳造冠にて前方のブリッジと連結し, 4ユニットとした.また, 上顎右側第一・第二大臼歯には動揺は認められないが水平的骨吸収が残存し, 歯根間距離が長いため陶材焼き付け鋳造冠にて連結したが, 連結部位が増えると支台歯形成・印象の精度・修復物の適合性や咬合・合着用セメントの種類・予後不良な歯牙が生じた場合の補綴的再介入の問題などから, 前方のブリッジとは連結せずに分割した.

下顎の欠損歯列に対しては対合歯への加重負担を考慮し可撤式補綴装置を選択した. 安定したパーシャルデンチャーの条件として, 支持(垂直的移動への配慮), 把持(水平的移動への配慮), 維持(離脱への対応)がある. 安定したパーシャルデンチャーは鈎歯への負担を減じることができるが, 本症例は, 下顎の残存歯の負担能力を考慮した上でサベイドクラウンを用いた構造設計のデンチャーを選択した. それは, サベイドクラウンを用いることで鈎歯に加わる応力を歯根側に移動でき, 垂直的移動や水平的移動を軽減でき、維持のための接触面積を増大できるからである. そして, 構造設計とは建築関係の用語として定着していたものではあるが, 歯科補綴装置的には、歯科材料の性質などに基づいて適切な強度や維持力などを数値化し立体化された設計をいう.そのため, 過剰な維持力を避け, 残存歯に数値化された応力を分散することが可能となる.

また, 上下顎前歯の咬合調整を行ったのは, アンテリアガイダンスのメカニズムが正常に働き, 側方運動時に臼歯部にディスクルージョンをもたらしているか否かは機能を考えるうえできわめて重要であるといわれているからであった.

 

結論

下顎臼歯欠損を伴う広汎型重度慢性歯周炎患者に対して, 歯周基本治療後に残存した深いポケットの改善を目的に再生用法を施術後, 咬合の安定のために口腔機能回復治療を行った. その治療方針としては, 清掃性を考慮した固定性補綴装置を連冠にて装着し, 上顎臼歯の一次固定を行い, 下顎は対合歯への負担を考え, 固定性補綴装置を単冠にて装着し, 可撤性補綴装置にて下顎残存歯の二次固定を行った.

術後4年9ヵ月ではあるが良好な結果を得ることができた.  ただし, 今後も定期的なSPTにより継続的管理が必要である.

 

このたびの症例報告提出に際して, 開示すべき利益相反状態はありません.

 

参考文献

1)特定非営利活動法人 日本歯周病学会編:歯周治療の指針2015

医歯薬出版, 東京, 15-15, 2015

2)  Cortellini P et al.: The modified minimally invasive surgical technique. A new surgical approach for interproximal regenerative procedures. J Periodontol 1995 ; 66(4) : 261-266.

3)  Tonetti MS. 歯周組織再生外科治療において失敗を防ぎ予知性を高める方策 日本臨床歯周病学会誌 2014 ; 32(2) : 65-71

4)  川島 哲 バイオキャストパーシャル 第1版 医歯薬出版、東京、62-96 .  2000.

5)  山﨑長郎 審美修復治療 ~複雑な補綴のマネージメント~ 第1版 クインテッセンス出版、東京、22-54 .  1999.

 

歯周炎歯肉炎

歯周炎
歯肉炎

歯周炎歯肉炎

歯周炎
歯肉炎

歯周外科再生療法

歯周外科
再生療法

入れ歯構造設計

入れ歯
構造設計

歯周炎再生療法

歯周炎
再生療法

 

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