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臨床歯周病学会投稿文献1

2023年12月12日

根分岐部病変を有する大臼歯に対して

種々な歯周外科治療にて対応した一症例

       

Various periodontal surgical treatments of molars

 with furcation involvement  A  case  report

川里 邦夫

KAWASATO  Kunio

キーワード:根分岐部病変, Lindhe分類, 重度慢性歯周炎, 矯正治療

 

諸言   日常臨床において, 根分岐部病変を伴う重度慢性歯周炎は治療の選択に苦慮することが多い. Lindhe分類Ⅱ度の上顎の根分岐部病変への再生療法の結果にはばらつきがあり, 上下顎ともⅢ度の根分岐部病変については成功があまり期待できない. 根分岐部病変に罹患した歯に対しては, 歯根の保存を選択するか, 歯根の切除を選択するか,あるいは抜歯の対応を決めなければならない.

今回, 歯周基本治療で細菌性炎症因子を除去し, 根分岐部病変に種々の歯周外科を行い, その後に矯正治療を行い、側方運動時の臼歯離開を図り咬合を安定させ, 良好な結果が得られた症例を報告する.

 

症例の概要 患者:47歳, 女性

初診:2012年 2月

主訴:上顎右側第一第臼歯の咬合痛

全身的既往歴:特記事項なし, 非喫煙者.

歯科的既往歴:上顎右側第一第臼歯が1年前から違和感があった. 他の歯科医院に通っていたが, 歯周病の治療は受けたことがなかった.

1ヵ月前から咬合痛を認めた.

口腔内所見:

口腔衛生状態は不良. すべての歯に, 歯肉の発赤・腫脹が認められた. 右上7 6 左上 6 7 右下 7 6  には6mm以上のポケットが認められ, 右上7 6  左上6 7 右下7 6にⅡ度の右上2 1 左上1 2 4 5 右下 2 1 左下4 5 6 にⅠ度の動揺があった. 4mm以上のポケットは33.3%, Bop(+)は46.1%, PCRは100%であった. また,  右上6 左上 6 にⅢ度, 左下6 右上 7 左下 6  にⅡ度, 右上7  右下7 にⅠ度の根分岐部病変を認めた. 上下顎臼歯部に修復物があるが, 辺縁は不適合で2次カリエスが認められた.

咬合関係はAngle ClassⅠで上下顎前歯部に叢生が認められた.

エックス線所見:全顎的に中等度の水平性骨吸収が認められ, 右上6 左上 67  右下76 左下6  に垂直性骨吸収があり,右上6  左上6 7 は根尖にまで骨欠損が及んでいた.

家族歴:両親とも重度の歯周炎はない.

根分岐部病変

根分岐部病変

 

診断:広汎型重度慢性歯周炎

 

治療計画:①歯周基本治療:口腔衛生指導(OHI), スケーリング・ルートプレーニング(SRP), プロビジョナルレストレーション 左下6

咬合調整    右上76  左上67    右下76  左下67

②再評価

③歯周外科治療:

右下7 歯周組織再生療法 右下6 トンネリング  左下6 ルートセパレーション   左上6 トライセクション  左上7抜歯

右上7  組織付着療法       右上6 歯周組織再生療法

④再評価

⑤矯正治療

⑥口腔機能回復治療

⑦サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)

 

根分岐部病変

根分岐部病変

 

治療経過:

1) 歯周基本治療

歯周基本治療で口腔衛生指導を行い, すべての歯にSRPを行い,  側方運動時の臼歯部の咬合干渉を咬合調整し、夜間はナイトガードを装着し, 3ヵ月後に再評価検査を行った. その際に, 76 567 76 56 に4mm以上のポケットとBop(+)が認められた. 患者は治療に協力的で口腔衛生状態もPCR 9.8%と改善し良い状態が維持できていたため, 上下顎左右側大臼歯部に対して歯周外科の説明を行い同意を得て, 施術した. なお、歯周組織再生療法にはEMD(Emdogain)と骨移植材(異種骨Bio-Oss )を用いた.

2) 歯周外科治療

下顎右側第一大臼歯はⅢ度の根分岐部病変が認められたが生活歯であるため, エナメルプロジェクションを除去しトンネリングを行い, 歯間ブラシが通るようにした. 7mmのポケットのある下顎右側第二大臼歯の歯周組織再生療法(2012.10.)において,  深く広いカップ性の骨欠損が認められたが, リコール時にデンタルX線写真で骨欠損の部位に骨様不透過像を確認した(図5 ).また, 下顎左側第一大臼歯にはⅢ度に近いⅡ度の根分岐部病変が認められたため, ルートセパレーション(2012.12.)を行い歯間ブラシが通るようにした(図6 ).そして, 上顎左側第一大臼歯はⅢ度の根分岐部病変が認められたため, 頬側2根をトライセクションにて抜去し(2013.1.), 同時に骨補填材(Bio-Oss Geistlich社)にてリッジプリザベーションを行った, 上顎左側第二大臼歯は保存不可能のため抜歯した. リコール時にデンタルX線写真で骨欠損の部位に骨様不透過像を確認した(図7 ). また, 上顎右側第二大臼歯に6mmのポケットを認めたため組織付着療法を, 上顎右側第一大臼歯に6mmのポケットとⅡ度の根分岐部病変を認めたため歯周組織再生療法(2014.6.)を行い,  上顎右側第一大臼歯近心に狭くて深い2壁性の骨欠損が認められたが, リコール時にデンタルX線写真で骨欠損の部位に骨様不透過像を確認した(図8 ).

3) 矯正治療

歯周外科後, 上下顎前歯部の叢生の改善と側方運動時の臼歯部の咬合干渉を避けるため矯正治療(2014. 9.) を開始した( 図9 ). 非抜歯で叢生部分のディスキングを行い, .018”×.025”スロットエッジワイズ装置を使用した. 矯正の動的治療期間は2年であった. 下顎の保定装置は、4-4 bonded lingual retainerを3年間装着した。上顎には可撤式装置にて保定を行った。

4) 口腔機能回復治療

ルートセパレーションを行った下顎左側第一大臼歯には陶材焼き付け鋳造冠を装着した. トライセクションを行った上顎左側第一大臼歯はⅠ度の動揺が残ったため, ハイブリット冠にて上顎左側第二小臼歯と連結した. 最終補綴より3ヵ月後の再評価期間をおいて, SPTに移行した(2016.12.). また, ブラキシズムへの対応としてナイトガードを装着した.

5) SPT

現在は3ヵ月に一度の来院でSPTを継続している.が, 歯肉の発赤, 腫脹は認められず, 深い歯周ポケットも認められない. デンタルエックス線写真では, 歯槽硬線の明瞭化も認められ骨の平坦化及び安定が図られた. 夜間においては, スタビライゼーション型スプリントの装着を行い, ブラキシズムに対応している. 上顎左側第一大臼歯に関しては, SPT移行1年後, 咬合調整を行った. 3年後の再評価(2019.1.)において, 上顎右側第一大臼歯にⅠ度の根分岐部病変が認められるものの, PPD 3mm以内,  BoP(+)は2.2%, 動揺歯はなく, 歯周組織の状態は安定していた( 図10).  PCRは8 %であった.

 

根分岐部病変

根分岐部病変

根分岐部病変

根分岐部病変

 

考察 

1)歯周外科治療

Ⅲ度の根分岐部病変には再生療法を行っても十分な治癒が得られない事が多いため, 切除的に扱うなら, 下顎であればトンネリング, ルートセパレーション, へミセクションが主な治療法として挙げられる. 本ケースにおいては, 下顎右側第一大臼歯は生活歯であったため, 抜髄せずに清掃性の向上のためトンネリングを行った. そして, 下顎左側第一大臼歯は失活歯で歯質・歯根長・歯槽骨が十分あり, Ⅱ度ではあるがⅢ度に近いためルートセパレーションを行い口腔清掃の行いやすい形態を付与した補綴処置を選択した.

上顎の場合は, ルートリセクション, トライセクションが主な治療法として挙げられるが, 本ケースにおいては, 上顎左側第一大臼歯はⅢ度の根分岐部病変が認められたため, 生活歯ではあったが, 抜髄してまででも切除的に治療し清掃性の向上をめざすべきと判断し, トライセクションを行い, 頬側2根を抜去し, 口蓋根を残した。その結果, 単根化されプラークコントロールしやすい形態にすることができた. ただし、水平的残存骨量が少ないためⅠ度の動揺が残り, 左側第二小臼歯と連結する必要があった。Ⅱ度の根分岐部病変では再生療法を行うことで十分な治癒が得られる事があるため, 上顎右側第一大臼歯にEMDと骨補填材を併用した再生療法を行った。そして, 骨欠損形態がカップ状であった下顎右側第二大臼歯にも, EMDと骨補填材を併用した再生療法を選択した. それは, EMD単独で応用した場合, 歯肉弁を一次閉鎖できたとしても, EMDの物理的な性質上,スペース確保が困難なため, 軟組織の形態を維持し続けることは容易ではなく広い骨欠損の形態によって軟組織の陥没を生じてしまい良好な結果が得られない可能性もあったからである. 上顎右側第一大臼歯の根分岐部病変は残ったものの, Ⅱ度からⅠ度に改善し、プラークコントロールができる環境となった. なお, 上顎右側第一大臼歯は分岐部病変Ⅰ度で水平性の骨欠損であったため, 再生療法の適応外とし, ファーケーションプラスティーを行い組織付着療法を施術した. 上顎左側第二大臼歯は根尖にまで及ぶ骨吸収のため保存不可能であった.

2)矯正治療

歯周治療に不用意に矯正治療を組み込むことは, 歯周組織破壊の進行を急速化させる可能性があるが、炎症が十分にコントロールされていれば禁忌ではないと報告されている. また, 咬合性外傷は歯周病の初発因子ではないが歯周病を進行させるといわれている. 本ケースにおいて臼歯部に限局した骨欠損はプラークによる歯周組織の炎症と咬合性外傷が原因と考えられた. これらの考えを踏まえて, 本ケースにおいては, 患者の審美的希望もあったが, それ以上に側方運動時の臼歯離開を図り咬合を安定させ, 臼歯部の咬合負担を軽減することが第一の目的で, 矯正治療を行った. さらに, アンテリアガイダンスのメカニズムが正常に働き, 側方運動時に臼歯部にディスクルージョンをもたらしているか否かは機能を考えるうえできわめて重要であるといわれているからでもある. さらに, トライセクションした上顎左側第二大臼歯口蓋根を頬側移動し顎堤中央に位置させた.

結論

根分岐部病変を伴う広汎型重度慢性歯周炎患者に対して, 歯周基本治療後に残存した根分岐部病変と深いポケットの改善を目的に歯周外科を施術し, 咬合の安定のために矯正治療を行った. Lindhe分類Ⅲ度やⅡ度の根分岐部病変の治療方法は, 上顎と下顎, 歯根の形態, 骨吸収の程度によって左右される. その治療方針としては, 清掃性を重視し, 生活歯は歯髄を保存することにあった. 今回, 根分岐部病変に対して再生療法を含めた外科治療を行い, 矯正治療にて咬合の安定を図り, 良好な結果を得ることができた.  ただし, 今後も定期的なSPTにより継続的管理が必要である.

 

このたびの論文提出に際して, 開示すべき利益相反状態はありません.

 

参考文献

1)特定非営利活動法人 日本歯周病学会編:歯周治療の指針2015

医歯薬出版, 東京, 49-57, 2015

2)  Ong MA et al,: Interrelationships between periodontics and adult orthodontics.  J Clin Periodontol, 25:271-277, 1998

3)  Re S et al,;Orthodontics treatment in periodontally com-promised patient: 12- years report.  Int J PeriodonticsRestrative Dent. 20:31-39, 2000

4)  山﨑長郎 審美修復治療 ~複雑な補綴のマネージメント~ 第1版 クインテッセンス出版、東京、22-54 .  1999.

                                     

 

 

 

 

根分岐部病変

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