ビーバーちゃんてあだ名なんです
2024年2月8日
ビーバーちゃんてあだ名なんです
患者さんは14歳の中学2年性。臼歯部の虫歯治療で来院されました。
口腔内は、上下顎ともにごく僅かに叢生がありますが、臼歯部も1歯対2歯でちゃんと噛み合っていますし、
垂直被蓋、水平被蓋ともに正常であり、噛み合わせには特に問題があるようには思えません。
当然、咀嚼に問題はないのですが、食事中に時々口の中から物が溢れてしまうことがあるというのです。
よく観察してみるとリラックスした状態では口唇が完全に閉鎖しきれず、上前歯が口元から少し見えています。
動物のビーバーをイメージすることから、『ビーバーちゃん』という昔は可愛くて少しは好きだったあだ名も、
最近ほそう呼ばれるのがなんとなく憂鬱だと言っていました。そのため、いつもは意識して口唇を閉鎖しているそうです。
口元が閉じた状態では明らかに口輪筋とオトガイ筋が緊張しており、側方からみると口元が少し出っ張っている感じです。
この患者さんの担当衛生士は、矯正治療を終えた友人の口元が、ずいぶん引っ込んだことを思い出しました。
さて、叢生も少なく静的動的な歯の接触、つまり咬合が特に問題ない(むしろ平均以上)。
このような患者さんに矯正治療は必要なのでしょうか。
矯正治療では、叢生の除去〜つまり凸凹の解消があるわけですが、顔の中でどこに歯列がどこにあるべきか?というアプローチも同時に考慮します。
患者さんの鼻から下を透明人間としたら、その患者さんにとって理想的な上下歯列の位置が特定の場所に必ず存在するはずです。
矯正治療は、その位置になるべく近いところに歯列を並べようと考えるわけです(もちろん理想的な位置ピッタリは無理にしても)。
これは歯の凸凹とは全く次元の異なる問題であり、従って歯の凸凹がないからと言って矯正治療の対象にならないというわけではないことが理解できます。
この患者さんは、主に上顎が優勢であり、上下歯列は理想的な位置より前に出てきてしまっています。
前方に出過ぎてしまった前歯を舌側へもって行くということは、同時に歯槽骨を改善されるわけですから、
ベースとなっている上顎骨がやや大きくても、歯を移動させることによって、カムフラージュすることになります。
骨格の位置のズレをこのように歯の移動によって補償することを、『デンタルコンペンセーション』といいます。
もし『デンタルコンペンセーション』の必要性の高い患者がいたとしたら、それは歯の凸凹とは関係なく、矯正治療の対象となるのです。
(歯科衛生士のための矯正学 歯科衛生士 Vol.27 No.4/2003 参照)