上顎左側中切歯欠損の審美障害をもつ患者に 2・3・4 代替にて咬合再構成を行った症例
2026年8月8日
上顎左側中切歯欠損の審美障害をもつ患者に2・3・4 代替にて咬合再構成を行った症例
A case report of occlusal reconstruction for a esthetic disorders patient
with missing upper left central incisor applied 2/3/4 substitution
川里 邦夫 Kunio Kawasato
歯科医師・日本臨床歯科学会大阪支部 かわさと歯科 Kawasato dental office
大阪市北区曽根崎新地1-4-20桜橋IMビル4F

初診時
抄録
【症例の概要】 初診日2019年9月. 患者30歳女性で, 来院時の主訴は,「前歯が凸凹している, 見た目を綺麗にしたい」というものであった. 十年前に21歯は外傷で欠損し, 36歯は歯肉縁下カリエスのため保存不可能であった. 上下顎前歯には叢生および唇側傾斜を認め, セファロ分析の結果, 骨格性Ⅱ級であった. 口蓋隆起・下顎隆起が認められた. 治療方針として, 21歯が欠損しているため, 審美的対応が必要と判断し, 左右対称性を優先させるために, 21歯22歯23歯に代替することとした. 全顎矯正歯科治療で上顎前歯唇側傾斜を改善し, 22歯23歯24歯を21歯22歯23歯に形態変更するためおよび色調の調和のために, 矯正歯科治療・補綴歯科治療を行った. 抜歯となった36歯についてはインプラントを用いた欠損補綴治療を行った.
【考察】 22歯23歯24歯を21歯22歯23歯に代替するためには, 歯冠幅径と高径を矯正歯科治療にて調整し, 歯冠形態と色調を補綴歯科治療にて改善する必要があった.
【結論】複雑な問題を抱える患者に対して審美的・機能的改善を達成させるためには, 包括的歯科治療が不可欠である.
キーワード:2・3・4 代替, 矯正歯科治療, 補綴歯科治療, 包括的歯科治療,

初診時
Abstract
Patients : First visit data was September 2019 . The patient was female aged 30 years old and visited my office with the main complaint of anterior crowding and look neat. Ten years ago upper left central tooth was missing , lower left first molar was impossible to save due to subgingival caries. Upper and lower anterior teeth were crowded and upper anterior teeth were inclined to labial site, the patient was skeletal classⅡfrom cephalometric analysis results. Palatal tours and mandible tours were observed. As a treat policy, upper left lateral/canine/first premolar teeth were changed to upper left central /lateral/canine, because upper left central tooth was missing, it was determined that esthetic treatment was
necessary . Inclined upper teeth were improved with full orthodontic treatment, and upper left lateral/canine/first premolar forms were changed to upper left central /lateral/canine forms with prosthetic treatment. The extracted lower left first molar was treated with implant prothetics.
Discussion : Upper left lateral/canine/first premolar substitution needed to treated with orthodontic treatment to control those crown width/length and prosthetic treatment to improve those forms/colors.
Conclusion : Comprehensive dental treatment was essential to improve the esthetics and functionality of patients with complex problems.
Keywords: 2/3/4 substitution, orthodontic treatment, prosthetic treatment, comprehensive dentistry,
緒言
成人における歯科治療は, 既に修復補綴処置が施されていたり, 歯列や骨格に問題があるなど, 他科との連携を必要とすることがある. また, Canine substitutionは一般によく知られている手法になるが, 上顎の側切歯や第一小臼歯のSubstitutionはあまり見受けられない. 今回, 上顎左側中切歯が欠損した30歳女性のskeletal ClassⅡ症例に対して矯正歯科治療・補綴歯科治療を併用して22歯23歯24歯を21歯22歯23歯に代替し, 審美的,機能的な歯と歯列が得られた咬合再構成の症例を報告する.
本報告はヘルシンキ宣言を順守し, 行った. 初診から治療終了時までの顔面写真, 口腔内写真, エックス線写真等の資料, ならびに各種診察結果, 分析結果, 診断結果, 治療方針, 治療経過等を記した書類を本症例報告に使用することを患者本人に説明し, 症例報告に掲載する承諾を得た.
- 症例の概要
1, 初診時患者情報
30歳女性, 上下顎前歯が凸凹している, 見た目を綺麗にしたいとの主訴で2019年9月に当医院を受診した.
2, 口腔内所見(図1)
すべての歯の歯肉に発赤・腫脹があり, 多数歯に不適合な修復・補綴処置が施され, 二次カリエスが認められた. 21歯は欠損, 上顎前歯は唇側傾斜し, 審美的に大きな障害となっていた. 上下顎前歯部には叢生が認められ, 咬合接触のない咬合関係で, アンテリアカップリングは良好ではなかった. 咬合関係はⅠ級で, 上下顎の正中は上顎に対して下顎が
左側に2mm偏位し, 咬合高径の低下はなく, 顎関節の症状はなかった. 36歯は残根状態であった.
3, 検査・診断
パノラマエックス線写真(図2)から咬合平面の乱れが認められるが, 骨格の非対称性は見られなかった.デンタルエックス線から(図3), 21歯根尖相当部に金属様のエックス線不透過像が確認され, 22歯の補綴装置は不適合で, 17歯16歯26歯27歯37歯46歯47歯には二次カリエスがあり, 36歯には縁下カリエス・パーフォレーションが認められた. 31 歯の根尖にはエックス線透過像がみられた. 歯周組織検査(表1)の結果, BoP(+)32.7%, PPD over 4mm 32.1%であったが, 5mm以上の歯周ポケットはなく, 動揺歯・根分岐部病変もなかった. CRマウント(図4)から, 27歯37歯に早期接触が見られたが, MIP-CRのズレはなかった. 顔貌写真(図5)から, 正貌は左右非対称であり, 顔面正中に対して下顎が左側に偏位し, 側貌は下顎が後退したⅡ級様の顔貌であった. 下顎安静位において僅かに歯が口唇から露出していた. 顔面正中に対して上顎の正中は一致していた. 側方頭部エックス線写真(図6)から, SNA 80.5°SNB 72.5°ANB 8.0°近遠心的顎間関係はskeletal ClassⅡであった. FMA 39.0°から垂直的顎間関係はハイアングルであった. U1 to FH 115.5(標準値111.2±5.2°), L1 to Mp 91.0°(標準値94.7±6.9°
)から上顎前歯が1.8mm唇側((115.5−111=4.5)÷2.5=1.8mm)にあり, 下顎前歯は1.8mm舌側((91.0−95=−4.5)÷2.5=−1.8mm)にあることが分かった. 上顎前歯が唇側傾斜し, interincisal angleは115.5°(標準値128.3°±8.8°)と小さい値であった(表2).
4, 治療計画
1) スケーリングおよびブラッシング指導
2) SRP, カリエス治療, 14歯36歯44歯抜歯, 22歯プロビジョナルレストレーション, 27歯37歯咬合調整, 全顎矯正
3) 再評価後にインプラント埋入36歯
4) 再評価後に問題点の改善
5) 最終補綴歯科治療
6) メインテナンス
補綴設計は, 22歯36歯オールセラミッククラウン, 12歯23歯ラミネートべニア, 34歯リンガルラミネート, 17歯16歯26歯27歯37歯46歯47歯セラミックインレー・アンレーとした.

治療時
5, 治療経過
歯周基本治療にてモチベーション, TBI, SRP, カリエス治療を行った. その後, 22歯の
補綴装置を除去し11歯と同じ歯冠幅径の即時重合レジンにて製作した(プロビナイス, 松風)プロビジョナルレストレーションを装着し(図7), 27歯37歯に咬合調整を行い, 全顎矯正を開始し, 14歯36歯近心根44歯を抜歯した(図8). その際に, 37歯の近心移動によるスペース不足を防止する目的で36歯遠心根は後に抜歯することとした.
① 矯正歯科治療
上下顎前歯の叢生・上顎前歯の唇側傾斜・skeletal ClassⅡを改善するために, 上下顎にマルチブラケット装置(スピリットMB .018×025,スロット, オームコ)で治療を行うこととした. 最初に, 23歯を22歯に代替するために, 23歯を挺出させ, 切端の形態修正を行い, 上顎側切歯の形態に近づけた.その際に, 隣接面のInter Proximal Reduction(以下:IPR)を行った(図9). そして, 24歯の側方運動時の咬合干渉を減じるために圧下し, できたスペースの切端と咬合面にビルドアップを行った(図10).
矯正歯科治療にて22歯23歯24歯を21歯22歯23歯への歯冠幅径と高径の変更を行い, 2年10カ月の矯正歯科治療の結果, 犬歯Ⅰ級・臼歯Ⅰ級の咬合を確立した. 終了後, 再評価を行った. そのときの顆頭位は顆頭安定位にあり, 咬合高径および咬合平面は正常であった.
② インプラント治療
患者は治療に協力的で口腔衛生状態もPCR 9%と改善し良い状態が維持できていたため, 36部へのインプラントの説明を行い, 同意を得て行った. サージカルステントを使用してCT撮影を行い, インプラントの埋入位置を検討した. 結果, 36部に1本のインプラント埋入を計画し, サージカルガイドを作製し, インプラント(Screw-line implant Promote plus, 直径4.3 mm, 長さ11mm, Camlog社, ドイツ)を一回法にて埋入した(図11). 3カ月の治癒期間をおいて, ジルコニアアバットメント(プロセラ, ノーベルバイオケア), プロビジョナルレストレーション(プロビナイス, 松風)を装着した.
③ 補綴歯科治療
矯正歯科治療・インプラント埋入後(図12)に, 最終補綴装置 の作製に取り掛かった. まず, 診断用ワックスアップから形成用ジグを作製し形成し, 24歯のコンポジットレジンのビルドアップをリンガルラミネートベニア (二ケイ酸リチウム, Ivoclar)に置き換え, 歯科接着用セメント(レジセムクリアー, 松風)にて装着した(図13). そして, 形態と色調を調整するために, 23歯に唇側0.7mmの削除量を形成用ジグにて確認し,耐火模型にてポーセレンラミネートベニア(ヴィンテージHalo, 松風)を作製した. ポーセレンラミネートベニアを歯科接着用セメント(パナビアべニアLCペースト, クラレ)にて装着した. なお, 反対側の12歯の歯冠が小さかったために, 同様にポーセレンラミネートベニアを装着し, 歯冠の大きさを左右対象にした(図14).
22歯はジルコニアフレーム(松風ディスクZR-SSカラード, 松風)に前装用陶材(ヴィンテージZR, 松風)を用いたオールセラミッククラウンを作製し, 歯科接着用セメント(パナビアV5, クラレ)で装着した. その際に, 反対側と歯肉レベルを揃えるために, Morphological tooth augmentation procedure(以下:MTAP) で支台歯形成を行い, 歯頸部近心をハーフポンティックで豊隆を調整した(図15). また36部は, ジルコニアフレーム(松風ディスクZR-SSカラード, 松風)に前装用陶材(ヴィンテージZR, 松風)を用いたオールセラミッククラウンを作製し, 仮着用セメント(フリージノールテンポラリーパック, ジーシー)で装着した. その後, ブラキシズムへの対応としてナイトガードを作製装着し, メインテナンス(2023.7.)に移行した( 図16.17. 表3.).

治療終了時
- 考察
本症例は, 上顎左側中切歯欠損を伴うskeletal ClassⅡ症例で, 22歯23歯24歯を21歯22歯23歯に代替する必要があった.そのためには, 歯冠幅径と高径を矯正歯科治療にて調整し, 歯冠形態と色調を補綴歯科治療にて改善する必要があった. そして, 審美的・機能的改善を達成させるために,包括的歯科治療が不可欠であった.そもそもCanine substitutionは一般によく知られている手法になるが, 上顎の側切歯や第一小臼歯の代替はあまり見受けられない.
22歯23歯24歯の歯頸線はロー・ハイ・ロー, 逆に21歯22歯23歯の歯頸線はハイ・ロー・ハイの関係にある. そのため, 上顎の側切歯や第一小臼歯の代替は, 矯正的圧下と矯正的挺出によって歯頸線を改善することが必要となる. また, 上顎第一小臼歯の代替は, 側方運動時に非作業側の舌側咬頭が干渉しやすく, 歯・歯周組織・筋肉・顎関節などに障害をもたらす可能性がある. また, 咬合調整を行った場合, 露髄の危険性がある. そのため, 上顎第一小臼歯の代替はコンセンサスの得られた治療法とは言い難い. ただ, 上顎第一小臼歯を圧下させることで干渉を減じることで露髄を避ける事は可能である. その結果, 歯頸線も改善される.
そして, 23歯のCanine substitutionは矯正的挺出によって歯頸線の調和は得られたが, 色調の改善のためにポーセレンラミネートべニアを装着した. その際に, 支台歯の色調の影響を少なくするためにマスキングを行い, 接着用セメント(パナビアべニアLCペースト, クラレ)はブリーチ色を使用し, 明度を上げることとした. 側切歯の歯冠中央は平坦で, 犬歯の歯冠中央は凸型のため, 凸型の部分の削除量を多くし平坦な形態にした.
さらに, 22歯の代替は矯正的圧下によって歯頸線を修正し, 歯冠修復によって側切歯から中切歯に形態を近づけた. しかし, 近心歯頸部の歯肉縁の対称性が得られなかったため, 上皮性付着を侵さない範囲でMTAP(Morphological tooth augmentation procedure) によってマージンを極力縁下に移動し, ハーフポンティックにて歯肉縁の調整を行う必要があった. 本症例は2・3・4 代替のため, 上下左右不規則な抜歯部位となったが, 側方頭部エックス線写真において, SNA は変化なく, SNB は72.5°から74.0°と大きくなり, ANBは 8.0°から6.5°とskeletal ClassⅡが改善された. FMA は変化してないことから, 下顎が
前方位をとったと推測できる. U1 to FHは 115.5から111.0°に小さくなり, L1 to Mpは 91.0°から89.0°に小さくなり, 結果として, 上顎前歯の唇側傾斜は改善し, interincisal angleは115.5°から122.0°と改善した( 図18. 表4.).上顎左側歯根が傾斜しているが, 歯根の移動は骨内であるため限界があった. また, 上顎左側臼歯部の陥凹は外側からの応力によるものと考えられるが, 矯正後の陥凹に対して, 36部インプラント補綴補綴にて対応した. 結果, 下顎左側大臼歯の幅径・歯肉レベルに不揃いが生じた.
しかし, 矯正歯科治療・補綴歯科治療によって, 犬歯Ⅰ級・臼歯Ⅰ級の咬合が確立され, 咬合平面は整い, 側方運動時にディスクルージョンを獲得できた. 犬歯・臼歯関係はⅠ級で, 緊密な咬合が得られ, 咬頭嵌合位の安定が得られた.
- 結論
本症例では, 上顎左側中切歯が欠損したskeletal ClassⅡ症例を, 2・3・4 代替を行い, 矯正歯科治療と補綴歯科治療によって歯・歯列の改善を行い, 良好な審美性と機能性が得られた.包括的歯科治療が必要であったが, 良好なアンテリアガイダンスとバーティカルストップが得られた. 治療期間は3年10カ月で, 現在3カ月ごとのメインテナンスを行い, 2年6カ月ではあるが, 機能的・審美的に良好な経過を得られている.
本論文において, 他者との利益相反はない.
文献
1) 山﨑長郎 : 審美修復治療~複雑な補綴のマネージメント~. 第1版, 東京, クインテッセンス出版, 1999:22-54
2) Vincent O. Kokichi Jr , Greggory A, Kinzer Managing Congenitally Missing Lateral Incisors. Part 1 : Canine Substitution JERD 2005;17(1) : 5-10
3) 長岡一美 : 現代日本人成人正常咬合者の頭部X線規格写真および模型計測による基準値について. 日矯歯誌, 1993;52(5):467-480
4) Paniz G, Zarow M, Nart J, et al. Dual-Center Cross-Section Analysis of Periodontal Stability Around Anterior All-Ceramic Crowns with a Feather-Edge or Chamfer Subgingival Preparation . Int J PRD 2020;40(4) : 499-507
5) William R Proffit 著 作田守監修 高田健治訳 プロフィトの現代歯科矯正学 第1版, 東京, クインテッセンス出版, 1989:168-198
