成人Angle ClassⅢ

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キービジュアル

成人Angle ClassⅢ

2024年8月29日

[ 症例報告 ]

上顎前歯に不適合な充填がなされていた成人Angle ClassⅢ症例

A case report of adult Angle ClassⅢ

with defective restorations of upper incisors

川里 邦夫

Serendipity かわさと歯科

Kunio KAWASATO

Serendipity Kawasato Dental Office

キーワード:Angle ClassⅢ、インターディシプリナリー、上下顎中切歯軸

 

Ⅰ はじめに

成人における矯正歯科治療は、既に修復補綴処置が施されていたり、歯周組織に問題があったり、

他科との連携を必要とすることがある。

本症例は、著しい叢生と上顎前歯に不適合充填物がされた成人男性のAngle ClassⅢ症例を、

歯周組織の改善を行い、修復補綴治療を併用して、ハーフリンガルによる矯正歯科治療を行い

良好な咬合が得られたので報告する。

 

Ⅱ 症例の概要

治療開始年齢は34 歳 3 カ月で、上下の前歯の叢生と下顎前突を主訴に来院した。

全身所見に特記事項は認められなかった。

顔貌では、顔貌の正中に対して下顎が右側への偏位が認められた。

側面はオトガイの突出を伴う著しい下顎前突の様相であった。

口腔内所見では上顎前歯に充填処置、左側第一小臼歯に補綴物が施されており、

歯周組織の状態は不良であった。また、歯牙形態は左右非対称であり、

色調にも問題があった。(図1)

下顎前歯部に前突感と叢生が認められ、臼歯関係はClassⅢで、over jet-1.0mm、over bite+3.0mm であった。

習癖は認められなかった。

模型所見としてarch length discrepancy(ALD)は上顎-9.0mm 下顎-2.0mmであった。

ボルトン分析の結果、下顎前歯が各歯とも0.5mm 大きいことが分かった。

パノラマ写真所見では歯根吸収や歯槽骨の吸収は認められず、第三大臼歯もなかった(図4)。

側面頭部X線規格写真所見では、骨格系はSNA78.0°、SNB80.0°、ANB -2.0°とClassⅢ、

FMA は26.0°と標準内であった。

歯系は、U1 to NA 5.0 mm 27.0°、L1 to NB 5.5 mm 22.0°IMPA86.0°で、

上顎前歯の後退、下顎前歯の前突が認められ、インターインサイザルアングルは、133°と標準内であった。

 

図1 初診時の顔貌・口腔内写真(34 歳 3 カ月)

図1 初診時の顔貌・口腔内写真(34 歳 3 月)

 

図2 動的治療終了時・補綴装着時の顔貌・口腔内写真(35 歳 9 カ月)

図2 動的治療終了時・補綴装着時の顔貌・口腔内写真(35 歳 9 カ月)

 

図3 保定後の顔貌・口腔内写真(38 歳 10 カ月)

図3 保定後の顔貌・口腔内写真(38 歳 10 カ月)

 

図4 パノラマX線写真 上段:(34 歳 3 カ月)中段:(35 歳 9 カ月)下段:(38 歳 10 カ月)

図4 パノラマX線写真 上段:(34 歳 3 カ月)
中段:(35 歳 9 カ月)下段:(38 歳 10 カ月)

 

図5 側方頭部X 線規格写真のトレーシングの重ね合わせ実線:初診時(34 歳 3 カ月) 破線:動的治療終了時(35 歳 9 カ月) 1点破線:保定・補綴後(38 歳 10 カ月) 上顎:ANS-PNS 平面(ANS 基準)重ね合わせ 下顎:下顎下縁平面(Me 基準)重ね合わせ

図5 側方頭部X 線規格写真のトレーシングの重ね合わせ
実線:初診時(34 歳 3 カ月)
破線:動的治療終了時(35 歳 9 カ月)
1点破線:保定・補綴後(38 歳 10 カ月)
上顎:ANS-PNS 平面(ANS 基準)重ね合せ
下顎:下顎下縁平面(Me 基準)重ね合わせ

 

Ⅲ 診断

叢生を伴うAngle ClassⅢ症例とした。

 

Ⅳ 治療方針と経過

上下顎中切歯の正中は,下顎に対し上顎が右側に1mm 偏位していた。

顔面写真から顔面の正中と下顎中切歯正中の一致が認められた。

つまり、顔面正中に対して、上顎中切歯は右側に偏位していた。

そのため、顔面正中に対して、上顎中切歯正中を左側に1mm 移動することにした。

模型分析の結果、ALDは上顎-9.0mm下顎-2.0mmあり、側面頭部X線規

格写真から、上顎前歯の後退、下顎前歯の前突が認められたため、非抜歯にて

上顎歯列弓の拡大と下顎歯列弓の縮小にて上下歯列弓のディスクレパンシー

の改善を図ることとした。

上顎中切歯の歯牙形態は左右非対称であり、上顎側切歯の摩耗が顕著で、

矯正歯科治療のみの治療ではアンテリアカップリングがとれないため、

インターディシィプリナリーなアプローチが必要となった。

上顎にリンガルブラケット装置(STb)を装着し、同時に暫間的な咬合拳上を行い

.013 Ni-Ti でレベリングを開始した(図6)。

下顎には、ラビアルブラケット装置(.018×025 スロット )を装着し、

.014 Ni-Ti で動的矯正治療を開始した(図7)。

3カ月後、上下顎とも .016×022Ni-Ti に変更した。

上顎歯列弓を拡大することで、arch length discrepancy(ALD)を解消し、

下顎前歯のディスキングでスペースを獲得し、下顎歯列弓を縮小することで、

上下顎歯列弓のディスクレパンシーの改善を行った。

1年4 カ月後、顎間関係を構築するためディテーリングを開始した。

1 年7 カ月でブラケット装置を撤去した。

その後、上顎側切歯の摩耗、中切歯の形態の左右非対称が明らかとなり(図8)、

上顎前歯・上顎左側第一小臼歯の修復補綴処置に移行した。

保定装置は下顎は、5-5bonded lingual retainer を1 年間使用した。

上顎にはプロテクションスプリント(非生理的機能への対応)も兼ねて可撤式装置にて保定を行った。

現在bonded lingual retainer を除去し、2 年経過している。

 

Ⅴ 治療結果

成人の為、骨格的変化は無いが、顔貌の正中に対して上顎中切歯が一致し、

上下前歯の軸傾斜の改善により被蓋関係が改善され、良好なアンテリアガイダンスが得られた。

叢生は改善され、臼歯関係はClassⅠで、緊密な咬合がえられた。

側面頭部X線規格写真からANB -2.0°からANB -1.0°に改善され、

歯槽的にU1toNA は27.0°/5.0mm から38.0°/9.0mm に、L1toNB は22.0°

/5.5mm から19.5°/4.5mm に変化した。

上顎前歯は唇側傾斜し、下顎前歯は舌側傾斜し、被蓋関係は改善した。

インターインサイザルアングルは133°から124.5°に減少したが、標準値内の変化であった。

上顎臼歯は0.5mm 近心移動し下顎臼歯は0.5mm 遠心移動した。

矯正装置の除去は、アンテリアカップリングが得られることを確認して行い、最終補綴物を装着した。

そして、バーティカルストップを矯正後、咬合調整にてさらに安定させた。

そのため、静的咬合の安定が得られた。その結果、保定後の後戻りは観られてない。

ただし、咀嚼・嚥下・発音といった生理的機能やパラファンクションといった非生理的

機能に対する観察は続ける必要がある。

 

表1側方頭部X 線規格写真

表1側方頭部X 線規格写真

 

図6 上顎レベリング開始

図6 上顎レベリング開始

 

図7 下顎レベリング開始

 

図8 矯正後の上顎前歯の非対象と支台歯形成

図8 矯正後の上顎前歯の非対象と支台歯形成

 

Ⅵ 考察・まとめ

本症例の術前のANB 角は-2.0°であったが、ANB の改善とハーフリンガル矯正歯科治療中の

装置の脱離防止・クロスバイト解消のために、暫間的に咬合拳上を行った。

治療目標としてLAS のモディファイドゴール、ANB -1.0°U1toNA 9.0mm L1toNB 5.0mm を参考とした。

ANB -1.0°の時のL1toNBの理想値は5.0mm となるため、L1toNB は5.5-5.0=0.5mm 後退する必要があり、

U1toNA の理想値は1.0mm となるためU1toNA は5.0-9.0mm=-4.0mm後退,

つまり4mm 唇側移動する必要があった。

ただ、インターインサイザルアングルは133°と標準値内であったため、

その値が小さくなり過ぎないように、上顎前歯が唇側傾斜移動し過ぎないように注意した。

また、IMPA(L1 to Mand.p)86.0°のため、下顎前歯が舌側傾斜移動し過ぎないように注意した。

ALD は上顎-9.0mm 下顎-2.0mm あり、非抜歯にて上顎歯列弓の拡大を行い、

ディスキングによって得られたスペースを使った下顎歯列弓の縮小にて、

上下顎歯列弓のディスクレパンシーの改善が図れた。

また、FH to Occlusal planeが9.0°から6.5°に減少することで咬合平面が平坦になり、

ClassⅢが改善されClassⅠとなった。

暫間的に咬合拳上を行うことで、FMA (FH to Mand.p)26.0°が26.5 に、

ANB -2.0°が-1.0°にclockwise rotation し、

その結果上下口唇の改善がなされた。術後3年ではあるが経過良好である。

ただし、咀嚼・嚥下・発音といった生理的機能やパラファンクションといった非

生理的機能に対する観察は続ける必要がある。

というのは、上顎第一大臼歯の遠心頬側咬頭のシーティングが見られるため、

咀嚼運動時の干渉の可能性が残されているからである。

このたびの論文提出に際して、ヘルシンキ宣言の倫理基準に従って実施し、

患者御本人の了解を得ましたことを報告します。

 

A case report of adult Angle ClassⅢ

with defective restorations of upper incisors

Kunio kawasato

Serendipity かわさと歯科

Abstract: A 34years 3months old male patient presented Angle ClassⅢ. He had

defective restorations of upper incisors. The over bite +3.0mm and the over jet -

1mm. The patient was treated with the non extraction. Active orthodontic treatment

time was 18 months. And then, he was treated with prothodontic approach. I could

recognize the good treatment result and good retention after three years of the

treatment.

Key word: Angle ClassⅢ, interdisciplinary approach, torque of upper and lower central

incisors .

 

 

大阪市北区曽根崎新1-4-20桜橋IMビル4F

かわさと歯科・矯正歯科

日本歯周病学会専門医・指導医

院長 川里 邦夫

 

大人の矯正歯科

審美セラミック治療

治療名
矯正治療・審美補綴
費用
1230,000円(税込み)
内:オールセラミック1本/120,000円、矯正治療/750,000円
治療期間
2年半
通院頻度
1ヵ月 2~3回
そのほか患者様情報
36歳・男性
初診日 2012. 3.7.(9年経過症例)

治療内容

患者様の症状
数年前から他の歯科医院にて虫歯治療を受けたが、見た目が良くない・噛めないとのことで再治療を希望された。アングルクラスⅢであった。
治療法
全顎矯正の後、
オールセラミックにて上顎前歯の被せのやり直しを行なった。
治療結果
審美的な仕上がりで、患者自身も満足した。9年経過し良好である。
現在は2〜3ヶ月おきのメインテナンス中である。

※治療結果は患者様によって個人差があります。

治療を行う上での 注意点 (リスク・副作用)

オールセラミックには欠け易いといったリスクがあるためナイトガードは必須である。

清掃が重要である。

そのほか

ナイトガードは必須である。

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