成人Ⅰ級上下顎前突
2024年8月5日
[Case Report ]
– 優秀症例 –
歯牙の形態・色調に問題を持つ成人Ⅰ級上下顎前突症例
~ ANB と咬合からの考察 ~
【症 例】
主 訴 : 前歯部審美障害 性 別: 女性
治療開始年齢:29歳 9ヶ月
動的治療期間:28ヶ月
【現 症】:
側貌はコンベックスタイプを呈し、オトガイの突出感を認める。
正貌は、ほぼ左右対称であるが、顔貌の正中に対して上顎中切歯が右側へ3mm偏位している。 臼歯関係はアングルⅠ級であるが、上下前歯部に前突感と叢生が認められる。
側貌セファロからANB 8.0度であるが、SNA/SNBがともに大きい。インターインサイザルアングルは119度で、
L1 to NB が大きい値を示す。
歯牙形態は左右非対称であり、色調にも問題がある。
習癖・家族歴・全身状態に関しては特記事項なし。
Cephalometric analysis
【診 断】 : Ⅰ級上下顎前突
診断時の留意点:
上下顎中切歯の正中は一致しているが、顔貌写真から顔貌の正中と歯列の正中の不一致が認められる。
つまり、顔面正中に対して、上下顎中切歯は偏位している。
側貌セファロからANB 8.0°であるが、SNA/SNBがともに大きいため骨格的にANBを補正していると考えられる。
つまり、Root-Dougherty Hypothetisとして、SNA/SNBがともに大きく、SE/SLが大きいケースでは顎前突を示すが、このケースではSNA92.5°/SNB84.5°と、ともに大きいからである。
また、Hussels/Nanda,Ferrazzini,S.FreemanらはANBの補正の必要性を示している。そのため、ANBを補正すると0.8°となる。つまり、上下顎の前後位置関係がANB 8.0°より小さな値となる。そしてU1 to NA / L1 to NBの距離がともに著しく小さく計測される。
上下顎中切歯の歯牙形態は左右非対称であり、色調にも問題があるため、矯正のみの治療ではクオリティーにかけるため、インターディシィプリナリーなアプローチが必要となる。
【治療方針】:
上下顎第一小臼歯の抜去により叢生除去と上下顎前歯後退を図る。
顔貌と歯牙の正中を一致させる。
ただし、補正ANB0.8度のため、できるだけ下顎前歯を後退させる。
良好なアンテリアルガイダンス・バーティカルストップを得る。
歯牙の形態・色調を改善する。
【治療経過】
1)レベリング
2)パラタルバー装着
3)犬歯リトラクション(前歯のブラケッティングは極力後に行う)
4)前歯リトラクション
5)ディテーリング(歯牙形態、色調に対しては補綴と漂白にて対応)
6)保定
治療術式とその期間および 資料(★)
保定装置
リテーナーを装着しない場合も対処できるように上下顎ともボンダブルリテーナーとし、
さらに上顎にはプロテクションスプリント(非生理的機能への対応)も兼ねて二重に保定を行った。
咬合調整
ICP-CRにおけるズレは認められないが、さらに静的咬合を安定させるために、
ICPにてマウントし、咬合調整の必要な箇所の診査を行った。
ただし、咬合調整はマイナスの調整だけではなく、プラスの調整も行った。
つまり、形態不良からおこる咬合面接触の部分的欠如を補正した。
【治療結果】
成人の為、骨格的変化は無いが、顔貌の正中に対して上顎中切歯が一致し、オトガイの突出が改善された。
上下前歯部の前突感と叢生は改善され、臼歯関係はアングルⅠ級で、緊密な咬合がえられた。
側貌セファロからANB 8.0°のままであるが、歯槽的にU1toNAは19.0°/2.0mmから8.0°/-1.5mmに、L1toNBは34.5°/10.5mmから19.5°/6.0mmに、インターインサイザルアングルは119°から131°に変化した。
上下顎前歯は、とも舌側傾斜し、歯根は圧下した。上下顎臼歯は、ともに1mm近心移動した。
矯正後、歯牙形態・色調の問題は補綴と咬合調整とホワイトニングにて改善された。
矯正装置の除去は、アンテリアカップリングが得られていることを確認して行った。
そして、バーティカルストップを矯正後、補綴と咬合調整にてさらに安定させた。
そのため、静的咬合の安定が得られた。その結果、保定後の後戻りは観られてない。
ただし、咀嚼・嚥下・発音といった生理的機能やパラファンクションといった
非生理的機能に対する観察は続ける必要がある。
【考察】
成人のため骨格的変化は期待できないので、ANB8.0°ではあるが、その骨格形態に合わせて治療目標を設定した。
つまり、LASのモディファイドゴール8°-2mm 7mmを参考とした。また、補正ANBは0.8°となる症例であり、SNA/SNBとも大きいため、Root-Dougherty Hypothetisから顎前突していると診断し、下顎臼歯の固定は最大とし、前歯を牽引した。その結果、上下前歯の軸傾斜の改善により良好なアンテリアガイダンスが得られた。
動的咬合の安定として、咀嚼・嚥下といった生理的機能対する観察は続ける必要がある。
というには、上顎第一大臼歯の遠心頬側咬頭のシーティングが見られるため、咀嚼運動時の干渉の可能性が残されているからである。今のところ問題は無いが、術後1年しか経過してないため、さらに経過観察を行う予定である。
大阪市北区曽根崎新1-4-20桜橋IMビル4F
かわさと歯科・矯正歯科
院長 川里 邦夫
- 治療名
- 矯正治療・審美補綴
- 費用
- 1200,000円(税込み)
内:オールセラミック1本/120,000円、矯正治療/750,000円 - 治療期間
- 2年半
- 通院頻度
- 1ヵ月 2~3回
- そのほか患者様情報
- 26歳・女性
初診日 2002. 7.17.(6年経過症例)
治療内容
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患者様の症状
- 数年前から他の歯科医院にて部分的な入れ歯治療を受けたが、見た目が良くない・噛めないとのことで再治療を希望された。アングルクラスⅠであった。
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治療法
- 全顎矯正の後、
- オールセラミックにて既存の被せのやり直しを行なった。
-
治療結果
- 審美的な仕上がりで、患者自身も満足した。16年経過し良好である。
現在は2〜3ヶ月おきのメインテナンス中である。
※治療結果は患者様によって個人差があります。
治療を行う上での 注意点 (リスク・副作用)
オールセラミックには欠け易いといったリスクがあるためナイトガードは必須である。
清掃が重要である。
そのほか
ナイトガードは必須である。